日本料理では、旬の野菜の煮物に、必ずその旬のものを添えて頂きます。4月の竹の子の煮物には、山椒の若葉である、「木の芽」は欠かすことは出来ません。5月に入ると、新物の野菜が出回ってきます。新じゃがいもで作った肉じゃがには、「新しょうが」を針のように刻んで添えます。夏から秋にかけておいしくなる小芋には、まだ青い「柚子の皮」です。
もちろん、冬野菜の出る頃には、柚子も黄色くなります。鰤大根や鯛かぶらに、この柚子の皮を薄く細かく刻んで添えると、柚子の香りで魚の臭いも消してくれるのです。本当に日本料理は季節を大事にしているのがよく解かります。

竹の子に欠かせない「木の芽」の時期が終わると、小さな黄色い花をつけます。この花を「花山椒」として塩づけなどにして保存しておきます。つぼみだけの「花山椒」は渋みのある味わいが京都の風情にあっていると言われ、珍重されています。花も終わり5月から6月にかけてでてくる、青い山椒の実の「実山椒」は佃煮等に使われています。新緑の木々のなかに、時折山椒の木を見かけることがあります。その山椒の木が、雄株か雌株か、考えもしませんでした。実のなるのは雌株だけで、雄株には、山椒の実が出来ない事を最近に知りました。この実は、山椒の中で最も香りもよく、舌先にぴりぴりとくる辛みがあり、千重子お母さんの塩昆布にはなくてはなりません。
出始めの頃は、いつも少し値が高いように思います。また、最後の方は実も大きくなって、色もあまりよくありません。少し値が下がった時に、塩昆布に使う一年分を買い求めます。実についている軸をとるのは、ちょっとしたひと仕事になります。丁寧に軸を取った実をさっと塩ゆでしてから、水分を充分に取り、タッパーに入れて一年間冷凍しておきます。
塩昆布に使う昆布は、いつも出し汁を取った後の昆布を炊いています。美味しい出し汁をとる為に、利尻のいい昆布を使っています。出しを取った後でも充分旨みが残っているのです。この昆布を2センチ角位に切り鍋に入れ、お酒と濃口醤油を同量に入れて一晩おいておきます。次の日に汁がなくなるまで、焦げ付かないように炊きあげ最後に冷凍した実山椒とじゃこを入れて出来上がりです。おたべちゃんの子供の頃、どんなに沢山のご馳走の時でも、この塩昆布がないととてもご機嫌が悪くなりました。
四季おりおりの旬の野菜を、その時の旬の香りで頂くその一方で、その時期しか取れないものを、保存して常備菜として頂くのも何か旬がつまっているようにも思えます。一年分の実山椒の軸をとりながら、日本の四季に本当に感謝したい心境になりました。

<山椒について>
山椒はさわやかな香りと辛みが独特の風味を醸し出すものとして、古くから扱われてきました。葉には独特の芳香があり、実にはさらにピリッとした辛味が加わります。山椒は若芽、葉、花、実、樹皮などほとんどの部分が香辛料として使われ、捨てるところがないと言われ、春夏秋冬、季節毎に様々な利用方法があります。


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