京都の春を代表する年中行事として、祇園甲部の「都をどり」はかかせないひとつです。「都をどり」は、明治5年の第1回京都博覧会の余興として開催されたのが始まりだそうです。
ある宴会の席で「もう春の踊りのお稽古、してますのえー」とお姐さん芸妓さんが、いろいろと「都をどり」の話をしてくれました。最近は地方出身の舞妓さんが多い事や、地方(じかた)さんが少なくなった事など聞くと、京都の伝統を守っていく苦労が伺えました。「そやけど、春のをどりの時は、いろんな方からさしいれを一杯してくれはりますのどっせ」と言われました。よく聞くと一流料亭の物が多いようです。
「私、カレーやったら得意料理やけどなー」とお姐さんにふと言った時に、「カレーなんかくらはったら嬉おすえー」と言われたのが始まりでした。祇園はおたべちゃんもお世話になっているところです。お姐さんから言われた以上は断わる事は出来ません。普段から家族が多いので、大きな鍋に一杯炊いていましたが、一回分が30人分です。出来るかどうか不安でしたが、その年以来、カレーの差し入れは続いています。
何年も作り続けてきたカレーですが、一流の味を知っているお姐さん方に気に入るように、また一工夫しました。どの料理にも出しや、スープが肝心です。火曜日と金曜日しか売っていない三嶋亭の筋肉でスープを取るようにしました。スープを取っている間に、びっくりするほどの玉葱をソテーするのです。茶色になるまで、手がだるくてとても痛くなります。そこに、カレー粉をまぶし、ソテーした肉とトマトホールとこだわりのスープをいれ、1時間以上煮込みます。この時いつも「コックさんは本当に男の仕事だなー」とつくづく思います。
最近は市販のカレールーも随分味がよくなりなしたが、やっぱりカレー粉と小麦粉を炒めて入れています。カレー粉は何種類もの香辛料の入ったものを、前もってブレンドしておきます。最後にヨーグルトや、マンゴチャツネ、りんごのすり下ろした物など入れて味付けしますが、私は必ずお醤油を少し入れます。カレーの辛さがまったりするように思います。3時間程かかって出来たカレーですが、やっぱり一晩寝かせたほうが、落ち着いてくるのです。
毎年三人のお姐さんから頼まれていますが、今年は出番の日が三人ともちがうので、三回差し入れすることになるでしょう!
「ほんまにお母さんのカレー!おいしおすわー」と言われると、しんどい事を忘れてしまいます。カレーの差し入れは、祇園の伝統を守るのに一役かっていると自負している、千重子お母さんの年中行事の一つになっています。


<都をどり>
「都をどり」は1872年(明治5年)、東京遷都により、京都の没落を恐れた京都の町衆が「何か京都の活性化を」と開催した京都博覧会の余興として、舞妓・芸妓を揃えて「舞い」を披露しようと考え出されたのがその始まりといわれています。以来、戦争で中断した年はあるものの、100年以上の年月を重ね、今年平成19年で第135回目を迎えます。「ヨーイヤァサー」の掛け声と共に春の到来を華やかに告げる、古都の風物詩なのです。


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